∫[0≦x≦π/2]log(sin(x))dxの区分求積法を用いた求め方

次の定積分の値がいくらか知っている人は多いと思います。

$$ \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\log(\sin{x})dx $$

答えは \( -\frac{\pi}{2}\log{2} \) です。その最もポピュラーな求め方は、\( x\mapsto\pi-x \) と \( x\mapsto\frac{\pi}{2}-x \) の二通りの変数変換をし、なんやかんやで上手いこと同じ積分を作り出して求めるという、初見では思いつきにくい技巧的な方法です。やったことない人は実際に答案を作ってみてね。

さて、去年とある数学のセミナーでこの積分が出てきたときの話です。担当の院生の方が当時この積分を初見で求めた方法をお教え頂いたのですが、それが「おおうっ」となるような見慣れないものでした。それをここで紹介したいというのが今回の主題です。

タイトルに書いてある通り区分求積法を用います。まず、\( x\mapsto\pi-x \) により

$$ \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\log(\sin{x})dx=\int_{\pi}^{\frac{\pi}{2}}\log(\sin(\pi-x))(-dx)=\int_{\frac{\pi}{2}}^{\pi}\log(\sin{x})dx $$

なので

$$ \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\log(\sin{x})dx=\frac{1}{2}\int_{0}^{\pi}\log(\sin{x})dx $$

が分かります。この右辺について、区分求積法の定義より

$$ \int_{0}^{\pi}\log(\sin{x})dx=\lim_{n\to\infty}\frac{\pi}{n}\sum_{k=1}^{n-1}\log\left(\sin\frac{k\pi}{n}\right) $$

となります。ここで \( k \) を \( n-1 \) までにしているのは、\( k=n \) だとその項での \( \log \) が発散してしまい、具合が悪いからです(区分求積の本質としてはこの \( k \) の範囲の取り方で問題ありません)。さて、この被極限式は

$$ \frac{\pi}{n}\sum_{k=1}^{n-1}\log\left(\sin\frac{k\pi}{n}\right)=\frac{\pi}{n}\log\left(\prod_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}{n}\right) $$

と変形でき、よく知られた等式

$$ \prod_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}{n}=\frac{n}{2^{n-1}} $$

を用いれば

$$ \begin{align*} \frac{\pi}{n}\log\left(\prod_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}{n}\right)&=\frac{\pi}{n}\log\left(\frac{n}{2^{n-1}}\right) \\\\ &=\frac{\log{n}}{n}\pi-\frac{n-1}{n}\pi\log{2} \\\\ &\to-\pi\log{2}\ \ \ (n\to\infty) \end{align*} $$

を得ます。以上から

$$ \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\log(\sin{x})dx=-\frac{\pi}{2}\log{2} $$

が導出できました。

......途中の \( \sin \) の積の等式を知らない方のために、最後にここで証明しておきます。\( \zeta_n:=e^{\frac{\pi i}{n}},\ \xi_n:={\zeta_n}^2 \) とすると、\( \xi_n \) は1の \( n \) 乗根の一つなので、次の \( x \) の恒等式

$$ x^n-1=\prod_{k=0}^{n-1}(x-{\xi_n}^k) $$

が成り立ちます。左辺は

$$ x^n-1=(x-1)\sum_{k=0}^{n-1}x^k $$

因数分解できるので、\( x\neq1\) に対し

$$ \sum_{k=0}^{n-1}x^k=\prod_{k=1}^{n-1}(x-{\xi_n}^k) $$

となりますが、\( x\to1 \) とすれば

$$ n=\prod_{k=1}^{n-1}(1-{\xi_n}^k) \tag{1} $$

を得ます。ところで、\( \sin \) の複素関数的定義を考えると、\( 1\le k\le n-1\) に対し

$$ \sin\frac{k\pi}{n}=\frac{{\zeta_n}^k-{\zeta_n}^{-k}}{2i}=\frac{{\xi_n}^k -1}{2i{\zeta_n}^k} $$

であり、両端辺の絶対値をとると

$$ \left|\sin\frac{k\pi}{n}\right|=\left|\frac{{\xi_n}^k -1}{2i{\zeta_n}^k}\right|=\frac{|{\xi_n}^k -1|}{2} $$

ここで、\( 1\le k\le n-1\) より \( \sin\frac{k\pi}{n}>0 \) なので、左辺は絶対値を外せて

$$ \sin\frac{k\pi}{n}=\frac{|{\xi_n}^k -1|}{2} $$

となります。よって、両辺の \( k=1,2,\ldots,n-1\) の積をとれば

$$ \prod_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}{n}=\prod_{k=1}^{n-1}\frac{|{\xi_n}^k -1|}{2}=\frac{1}{2^{n-1}}\prod_{k=1}^{n-1}|1-{\xi_n}^k| $$

なので、(1)式と合わせれば

$$ \prod_{k=1}^{n-1}\sin\frac{k\pi}{n}=\frac{n}{2^{n-1}} $$

を求めることができました。